代表ご挨拶

きっかけは ある新聞記事でした。2014年3月、若いシングルマザーがインターネットで見つけた格安のベビーシッターに子どもを預け、殺害されてしまった「富士見市ベビーシッター事件」。
私が最もショックを受けたのは、母親が「児童扶養手当」の存在を知らなかったと記者に語っていたことでした。母子家庭が受け取れる月/約¥40,000の手当の金額は、彼女が子どもを預けて働いて得られるひと月の給与と全く同じだったのです。

当時私は温めていたアイデアを形にするかどうか、迷いに迷っていました。教材会社やゲーム会社で作ってもらえないかと試みたものの採用されず、あとは自分で作るしかないというところまで来ていました。
企画書すら見たことがない自分にできるのか、専門的な知識もないのにどうやって?等々、失敗した時に失うものの大きさを考え、踏み切れず長い時間が経っていました。

新聞を、持つ手が震えるほどの衝撃は今でも忘れられません。
あんなに大切な制度のことを知らない人たちがいるのかー。この事実は事件そのものよりも私の心に深く突き刺さり
「もし、作ろうとしている教材がすでにあって、そしてお母さんがゲームをやっていてちゃんとした知識を持っていたなら、あの子は死なずに済んだかもしれない。」
『命を護る教材』を何としても作らなければならないと気づいた、ライフリテラシーの強烈な原点です。

残念ながら実際の教材ではそこまでの情報は盛り込めていません。複雑すぎる制度を知るためには、順序立てて学ぶ必要があるからです。
「入門!」という名を冠し、まず10代~20代向けの教材として「ライフ・リテラシーゲーム」は、2015年7月世に出ました。

世界は歴史的な転換期を迎えています。所得、教育、地域、世代間などさまざまな格差が広がるなか、セーフティネットの知識を持たないが為に追いつめられる人々の不幸な事件は一向に減りません。

社会保障制度は複雑な現代社会を映す鏡であり、また先人たちの知恵の結晶でもあります。多くの若い方たちに「わかりにくくて面倒」「国の制度とはそんなもの」といった他人任せの姿勢から抜け出し、先人たちの知恵と努力によって築かれ、いま危機を迎えたといわれる制度の未来を切り拓いていってもらいたい。
そして何より、このゲームによってひとりでも多くの人の命を守る事ができるようにと 心から願っています。


代   表   加  藤    千 晃